14 メキシコ

 レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『アンダー・ザ・ブリッジ』なイントロが鳴り響く。タイトルは『メキシコ』。遠い。きっと遠い。行ったことがないからそう思う。メキシコなんてわかない。知らない。でも行けるんだよ、と思ってしまうよ。そんな無謀な旅路を突き進む決意を感じてしまうのも、100式という爆発的なエンジンを中村一義が搭載することが出来たからだ。シニカル満載の小野ちゃんのギターに「メキシコ」という名前が付いていたからだ。だから中村一義は行けると思った。太陽満載のまっちぃが『アンダー・ザ・ブリッジ』な哀愁あるイントロを奏でることが出来た時点で中村一義は行けると思った。
 ”初めは「二人」の愛が産んだんだもの”。なにはともあれ、この曲で、中村一義はこうも唄い切ることが出来てしまったというところに感涙。驚愕。両親の離別という忘れ難い彼の歴史をこのような言葉で肯定することが出来たというだけで感涙。驚愕。しかし、所詮、アーティストがどういう歴史を歩んできたのかとかそういうところにフォーカスすることほど生産性の無いものはない。それは、彼の歴史と僕らの歩んで来た歴史とは決して相容れないものであるし、そこに無意味に無邪気に共感&共鳴することは、一人のアーティストをヒロイックな存在に奉るシステムを創り上げてしまうことであるから。ただ僕らは、中村一義という人間がこの世に生を受け、生き続けながら音楽を創り上げている結果の、その作品を受け止め、僕ら個々それぞれが共感&共鳴すればいいのであるからだ。
 ”僕ら選んだ歴史の向こうを、”。ようは、そういうことだ。僕らは、時代に動かされ、自分の歴史を積み重ねてきたのではない。誰かに操られて生きてきたわけではない。そう簡単には思えないかも知れないが、そう思えなければ僕らは前に進めないのではないか?ここまで歩んできた歴史が、誰かの作為的な手によって左右されてきたなんて考えてしまったら、これから先には一歩も進めないと思えないか?そりゃぁ、自分の意志に反する出来事なんて星の数ほど溢れかえっている。そういうものに踊らされながらここまでやってきたというのは現実問題でも有る。でも、自分の心の中に溢れかえるほどの星が光っているのなら、それを道標として歩み行くのならば、僕らは歴史の向こうに行けるのだと思う。たとえ、目に見える形でたくさんの石ころが転がっていて躓いたとしても、心の中の光は決して無くならない。誰にも奪えない。
 気付いて欲しい。キミの心の中に、光はある。愛だってあるんだよ。手と手を握りあえる相手から与えられる光や、愛があるということは、キミ自身だって光り輝くことができるし、愛として生けることができるんだよ。
 そんじゃ、もう行くよ。僕も。

←back  next→

 back to disk review top