4 いつだってそうさ

 ”願いが実るその日まで。このまま、旅を続けよう”と中村一義は、『ERA』収録曲の『ピーナッツ』で歌い上げた。その旅の途中で出会えた感情をそのまま1曲にパッケージングした楽曲。この曲で響き渡るビートが『ピーナッツ』のそれを喚起させるという意味も含めて、軽快に歩いて行く感じが伝わってくる。無論、出会いというのは100式のメンバーと、「博愛博」で出会えたみんなだということ。そんな彼にとって最大の冒険でもあったツアーのドキュメントを書き下ろした楽曲である。この曲の最後に浮かび上がってくる100式メンバーのコ−ラス隊のなんともいえないハート・ウォームな感触が、あの「博愛博」を包み込んでいた心地よいヴァイヴを思い出させてくれる。いいね。すげー楽しげね。思い出すよね、あの感じ。たとえキミがあの「博愛博」という祝祭空間に足を運ぶことが出来なかったとしても、”手と手を交わす為にだって(為だって、ねぇ)、その手とこの手があるなら、歩み寄って”という赤面してしまうぐらいストレートな簡素な歌詞と、この穏やかなグルーヴに身を委ねてみれば、中村一義という、100式というバンドのはっちゃけたポテンシャルが伝わって来ると思う。うん。あんまりさ、こ難しいことを考えずにね。当たり前のことに気付くピュアな気持ちを忘れずに聴いて欲しいんだよね。そう、こんな幼稚な歌詞を単純なことだと流さないで欲しいんだよね。だって、僕らの生活にかけがえのないハピネスが生まれる瞬間ってこんぐらい幼稚なたわいもない瞬間に生まれるものなんだから。
 とは言いつつも、単なる馬鹿でいるだけじゃないんだよと、ブルーズは常に僕らの傍に寄り添っているんだよ、ということもこの曲では唄われている。今までの中村一義では考えられないほどの深みを帯びたロウなヴォーカリゼイションで唄われる”いつだってそうさ”というリフレイン。その後に続き、吐き出される心に刺さる言葉は、決して僕らを浮かれた野郎にさせないための中村一義の叱咤だ。ちょっとだけ『ERA』で毒づいていた彼の影が見隠れする。このアルバムを通して100式の生演奏にそこかしこに挟み込まれているプロトゥールスのカットアップ的な手法も、『ERA』のそれだ。そうなんだ。決して彼は振り向かないが、決して彼は大事なものを置き忘れたりはしないのだ。

 

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